自分の家を頭のなかで考えるのが好きだった。小さいときからの夢は﹁庭がある人と結婚する﹂。だから、お坊さんと結婚しようと思っていた。でもお寺に幽霊が出たらおっかないな、どうしようと思っていたら、和田︵誠︶さんが現れて、イラストレーターという職業も知らなかったのに結婚できて、﹁僕には自分の事務所がある。家はレミの世界だから、好きにしていいよ﹂と言われた。 考えていると夢が叶うとは本当で、念願の庭付きの家をつくることができた。植木屋さんを呼んで、一年中、いろんな花や実がつくような樹を植えた。和田さんはいなくなってしまったし、息子たちはインドア派で庭が嫌いと言って出てくれないけれど、本当にいい庭で、いまも草取りは自分でやっている。 キッチンは庭が見えるように家の真ん中につくった。昔は台所は北側に、というのが定番で、頼んだ大工さんにも驚かれた。でも一日中キッチンにいるし、いちばんいい場所を台所にしたかった。鍋敷きがなくてもじかに鍋を置けるカウンターだったり、シンクの下に引き出しやゴミ箱を並べたり、いまはそんな使いやすいキッチンが多くなったけれど、50年も前から考えていた。思いついては大工さんに頼んで、つくり続けてきた。 あるものを当たり前と思わないで、気持ちよく、使いやすくなるように考えることは大好き。せっかちで気短かな性格もあるとはいえ、それを突きつめていったのが料理です。シェフが一日かけてつくるものを10分でつくる、﹁シュフ︵主婦︶料理﹂を考えた。揚げずにつくる﹁食べればコロッケ﹂や、一本丸ごと使う﹁ブロッコリーのたらこソース﹂とか⋮⋮。 料理をしていると、フライパンの蓋をとったときにそれを立てておけないのが気になる。だけどどこに聞いてもそんなものはないという。鍋ごと誰かつくってくれないかなあと思っていたら、燕三条の会社のおじさんから電話がかかってきた。それから3年、ああしたいこうしたいと口を出して、そのたびに金型をつくりかえてもらって、大変だったと思うのにおじさんは誠実につくってくれ、そのフライパンがヒット商品になった。電話でおじさんが﹁レミさん、注文がへってへってしょうがないんです﹂。﹁え、減ってないでしょ?何言ってるのさ!﹂て返したら﹁いやへってるんですよ!﹂。イントネーションが違って、注文が入って入ってしょうがないんです、だった。おじさん、ちゃんと言ってよ! でも失敗もある。なんでも引っかけられるイヤリングを自作した。その日の気分でプチトマトを引っかけたりして、電車に乗ってると、みんなニコニコして見ている。次はイワシをブローチにしようと、パーツを買ってテーブルに置いておいた。そしたら家にいない隙に、猫のちいちゃんに食べられちゃいました。38KAJIMA202501ひらの・れみ 料理愛好家(もともとはシャンソン歌手)東京都出身。文化学院在学中にシャンソン歌手デビュー。72年、イラストレーターの和田誠と結婚。“シェフ料理”ではなく“シュフ料理”をモットーに、テレビ、雑誌で数々のアイデア料理を発信。講演会やエッセイを通じて、明るく元気なライフスタイルを提案。また、特産物を使った料理で全国の町おこしにも参加。著書は50冊以上に及ぶ。22年にはエッセイ『おいしい子育て』(ポプラ社)が第9回料理レシピ本大賞inJapanのエッセイ賞を受賞。新刊『平野レミの自炊ごはん』(ダイヤモンド社)、『私のまんまで生きてきた。』(ポプラ社)好評発売中。vol.241